2012年09月29日

2006年の憎悪/蛇口

2006年に愛し合っていた世界中の全ての恋人たちを俺は憎悪している


その年、俺は家族と病院の医者以外、誰とも会わなかった
父親と一緒に病院や公園に行く以外、ずっと実家に籠もっていた
東京に遊びに行くなど論外だった
人が多い場所は刺激が強すぎて、また発狂すると医者に言われた
毎日、俺は強い安定剤を服用し、朦朧とした一日を送っていた

電話では誰かと話をしたかもしれない
電話口で
働いたり、飲みに行ったり、ライブに参加したり、旅をしたりしている他者の
愉しげな息遣いをそこに感じて、心底、羨ましかった

2005年の11月に俺は二度目の入院をした
警察官に保護されたとき、俺は完全に狂人だった
両親は獣のような俺を恐れた
これまでの俺の社会復帰への応援から親は180度発想を転換し
俺以外の家族の幸せのために
俺がただおとなしく何もしないでいてくれることを願うようになった

母親は俺に言った
外に出るとあんたは何をしでかすかわからんから、家にずっといて
父親は俺に言った
お前のせいで母さんは老けたよ、もう迷惑かけるな、家にいろ

そのときに実家を飛び出るという選択肢もあった
しかし俺はキチガイの優等生だった

2006年は雨が降る日以外は毎日、父親と近くの農林公園を散歩した
公園を大きく円を描くようにぐるりと一周して、それを一時間続けた
俺の目の前を父親が歩く
足元の石で父親を破壊したら、車がやってきて、俺を正しい世界に連れ戻してくれると妄想し
父親を殺そうかなと思った
蝉が俺の首にぶつかってきて、俺は少し冷静になった

2006年、二十歳のあの夜を何度も思い出した
それまで忘れていたのに
渋谷のラブホテル
何もしないで俺は彼女よりも先に眠ってしまい、ふられてしまった
あの時、ちゃんと愛し合っていたら、こんな2006年はなかったのではないか

2007年2月、母親がアメリカに住む娘の出産の手伝いに渡米し
父親がスキーの合宿で長野に行き、俺は独りの夜をひさしぶりに手に入れた
俺は親に黙って外出した
およそ一年半振りの夜の新宿歌舞伎町
街がキラキラしていて眩しかった
ざわついた2006年の街を俺はやっと彷徨えたような気がして無性にうれしかった
posted by jagumi at 14:19| Comment(0) | 蛇口 | 更新情報をチェックする
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